世界淡水魚園水族館 アクア・トトぎふ

おもしろ飼育コラム一覧
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エゾサンショウウオの幼形成熟個体展示!

2021.12.21 (火)

田上

エゾサンショウウオは北海道に広く分布する小型サンショウウオで、当館では常設展示していませんが、これまでに何度か企画展示や特別展示を行ってきました。それ以外はバックヤードで長らく飼育していて、毎年産卵もしています。

 

さて、このエゾサンショウウオですが、かつて幼形成熟する集団がいたということが知られています。幼形成熟個体とは姿や形は幼生の特徴を有しているにもかかわらず、生殖器官は成熟しており繁殖可能な状態の個体をいい、ウーパールーパー(メキシコサラマンダー)もその一つです。

 

エゾサンショウウオの幼形成熟個体は北海道の登別温泉の近くにある倶多楽(クッタラ)湖で見つかっていましたが、1932年に採集された2個体を最後に絶滅したと考えられています。以降約90年間にわたり見つかっていないという、伝説的な存在だったわけです。

 

それが、2020年12月、2021年4月に再発見したという論文を北海道大学の研究グループが発表したことが、大きく話題となりました。

 

https://www.hokudai.ac.jp/news/2021/12/89.html

 

論文では幼形成熟っぽい個体を発見しただけではなく、その個体の精子の活動性を確認し、さらに人工授精を行い、通常の成熟個体と遜色ない受精能力を持つことが確認されています。

 

当館では、なんと、この約90年ぶりに見つかった幼形成熟個体を12月14日から展示しています。

なぜアクア・トト ぎふで展示?と思われる方も多いかもしれませんが、当館では以前から北大と共同で両生類の生活史進化に関する共同研究を行ってきました。今回発見された幼形成熟個体についても、共同研究として成長や繁殖を調べることになったからです。

 

と、淡々と書いてしまいましたが、初めてこの件を耳にしたときの衝撃と言ったら…。

2021年10月中旬。幼形成熟個体を発見し報告した北海道大学の岡宮久規博士と岸田治博士らが別件の共同研究を進めるため来館されました。それぞれが作業を終えてから、一息ついている時に岸田さんが言いました。

 

「エゾサンショウウオの幼形成熟個体を見つけたんですよ。で、アクア・トトぎふで飼って、共同研究しませんか?」

 

あまりの衝撃に私の目はカッと見開き、口からは「マジっすか」の言葉しか出てきません。小心者の私はその場では返事を「保留」してしまいました…。

(その後、結局お引き受けすることにしました。)

 

それから約1か月後、発見された幼形成熟個体たちがいよいよ岐阜にやってくる日が来ました。貴重な個体たちですので、発見者の岡宮さん、岸田さんが再度北海道から手運びで輸送してくれました。

 

 

発泡スチロール箱の中の幼形成熟個体をチェックする航空会社職員の方。

 

箱は、ペットクレートに収容され、貨物輸送室に運ばれます。

 

輸送作業を鋭い視線で監視…、もとい見守る岸田さん。

 

こうして、無事アクア・トトぎふへ到着。

 

箱を開けて、いよいよご対面です。胸がトゥンクトゥンク高鳴ります。

 

「おぉ、すごい…。」幼形成熟個体をこの目で見ることができて感動しました、が(思ったより細いなぁ…、ちゃんと飼育できるだろうか…)という心配が強烈に湧き上がってもきました。

 

到着したのは18:30頃でしたが、それから帰宅するまでに心配になって何度も何度も確認しに行きました。フタがずれて逃げていたなんてことになったら、目も当てられないですからね…。

 

搬入からずっとド緊張のままバックヤードで飼育してきましたが、幸い大きな事故などもなく、無事に展示することができました。

 

 

ですが、まだまだ安心できません。じつは過去に捕獲された個体を生息地から別の場所に移動させたところ、変態したという記録があります。とりあえず展示期間中は幼形成熟の状態を維持したいので、水温など飼育環境に大きな変化をつけないよう注意しています。胃がキリキリする日々が続きますが、この貴重な幼形成熟個体を多くの方にご覧いただけるよう頑張ります。

 

そして今後は、岡宮さん、岸田さんら研究者の方々と共同で、飼育下での繁殖行動を調べたり、幼形のまま成長し続けるのか、いずれ変態して陸棲の生活に移るのかなど、生活様式を調べたりしていきます。またおもしろい発見などがあれば、展示を通じて皆様にご紹介いたしますね。

 

 

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カテゴリー  日本の両生類
キーワード 田上
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