冷たい水の中で
2017.10.16 (月)
堀江真
こんにちは。秋真っ只中ですね。 冬になりさらに水温が下がると、魚によっては、じっとしている時間が増えて、 エサを食べる量も減ってきます。 ですが、春に産卵するタイプの魚にとっては、秋から冬にかけてこそ、 繁殖に備えた体づくりをする大切な季節でもあります。 ところで、こちらの写真ですが、これはふ化直前のビリンゴの卵です。 ビリンゴはウキゴリの仲間で、この地方では「ゴリの佃煮」として売られています。 ビリンゴも初春に産卵します。 昨年の秋から春にかけて、水温や照明の時間を操作するなど、 繁殖に備えた体づくりをサポートしたところ、3月7日に産卵しました。 3月?今さら?という感じもしますが、 先日ようやく育った若魚を展示水槽に入れることができましたので、 このタイミングでのお知らせとなりました。 ふだんのビリンゴはこんな感じで、 透きとおったような薄茶色の体に黒い背ビレが特徴です。 それが繁殖期を迎えたメスは大変身! 近くにオスがいないとここまで黒くはならないのと、 カメラを構えたりして人の気配を感じると、 色が薄れるので写真をとるのは苦労しました。 寒い冬が終わり、水温10℃以上になると繁殖行動を開始するそうで、 水槽内でも水温12℃のときに盛んにメスがオスにアピールしていました。 12℃というと、手を入れるとめっちゃ冷たい。 スイカだったらキンキンに冷える水温です。 オスは巣穴で待機していて、そこにメスがアピールするのがビリンゴの求愛です。 本来は川の泥底にある穴を利用して(あるいは穴をほって)、 それを巣穴とするのですが、 予備槽では細いパイプを巣穴として利用してくれました。 産卵が終わってもオスは巣穴に残り、 胸ビレを使って卵に新鮮な水を送るなど、ふ化するまで卵を守ります。 水温が低いこの時期ですから、ふ化まで約1カ月もかかります。 そして誕生したのが、こちらです。体長は6.5ミリ。 ふ化直後にしては、わりとしっかりとした体つきをしています。 数日たって遊泳力がついてくると、とにかく臆病で、 逃げて水槽にぶつかるため、 これ以降の写真は撮れませんでした。 ですが、ふ化したほとんどの個体が生き残り、今は展示水槽と、 来年の繁殖に向けた予備水槽とに分かれて元気にしています。 ビリンゴの繁殖は、当館ではこれが初めての試みでしたが、 奇跡的に成功しました。まぐれかもしれません。 そのため大事なのはこれからです。 当館で産まれた個体が育ち、やがて成魚となり、 うまく繁殖してくれるでしょうか? 水温だけでなく、日照時間、エサの量や種類、水質などなど、 気を遣うことが多すぎて、今年もひやひやな冬を送る予定です。
カテゴリー アクア・トトの生き物日本の淡水魚
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