壁画から甦る魚たち?!
2024.09.09 (月)
みなさまこんにちは。展示飼育部の佐藤です。
今日、紹介するメコン川の魚は壁画に描かれた魚たちです。
メコン川が流れるカンボジアには12世紀に建てられたアンコールワット遺跡があり、現在は世界遺産に登録されています。
そのアンコールワットにある東第一回廊の壁には乳海攪拌(にゅうかいかくはん)という神々の天地創造神話が描かれており、神々と共にメコン川の魚たちが彫られています。
この神話はお話しするととても長くなってしまうので、興味のある方はぜひ調べてみてはいかがでしょうか。とても魅力的なお話ですよ!
さて、今日はこの壁画に描かれている魚たちに注目してみます。
私がこの壁画を初めて見たのはカンボジアで魚調査を始めた25年前になりますが、壁画の中の魚たちをよく見てみると、どれも特徴がしっかりと描かれていました。
どの魚も、私にとっては調査中に出会う魚たちばかりでした。そして何よりもこの壁画を彫った千年近く昔の石工さんたちが、しっかりと魚たちの特徴を理解して表現している事にすごく感動した思い出が今も心に強く残っています。
それでは今回は、その壁画の中から当館で展示している魚を4種ピックアップしてご紹介いたします。
1種目はこちらの魚です。(壁画の中の魚が見やすいように明暗をつけた加工をしています)
いかにも魚らしい姿ですが、このひし形の体型や鱗の大きさ、鰭の形状などから想像すると、コイ科の魚だということがわかります。そしてこの地域に生息するコイ科の中で現存する種類を見ていくと、イエローフィンバーブの仲間だと想像することができます。
現在もバーブの仲間は重要なタンパク源として食されています。
2種目はハンパラバーブです。
こちらもコイ科の魚ですが、頭部が大きく、やや細身の体型をしていますよね。この姿をした現存種はハンパラ属の魚しかいません。体の中央にある大きな黒い斑点が描かれていれば完璧ですね。上のイエローフィンバーブ同様に美味しいですが、小骨が多い魚なのでちょっと食べにくい魚です。
3種目はナイフフィッシュの仲間です。
別名はナギナタナマズとも呼ばれる魚でその姿はまさに細長くカーブする長刀の様です。メコン川では4種のナイフフィッシュが知られており、当館ではそのうちの1種を展示しております。
最後の4種目は当館でも大人気のメコンオオナマズの仲間です。
本当はメコンオオナマズです!と言いたいところですが、種類まではわからないため、ここではメコンオオナマズを含むパンガシウス科の魚たちとさせていただきます。
この壁画では他の魚たちよりも一際大きく描かれており、コイの仲間とは違い、鱗も描かれていません。さらに、背びれと尾びれの間にある小さな脂(あぶら)びれがしっかりと描かれていますよね。現在、メコン川では絶滅の危機に瀕しているメコンオオナマズですが、当時はもっとたくさんいたのだろうな~と想像してしまいます。
さて、今日紹介した魚たちは、「メコン川中流の魚」水槽にて展示しております。千年以上前の人々が見ていた魚たちを、当館の水槽でもご覧いただけます。
ご来館の際には、アンコール王朝時代のメコン川を想像しながら、じっくりと魚たちを見ていただけると嬉しいです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
それではまた!