

魚病闘病日記パート⑦(ファイヤースパイニィイールの寄生虫)
2025.05.12 (月)
みなさん、こんにちは。
少しずつ暑くなってきました。気温の変化にご注意くださいね。
魚病闘病日記、久々の更新です。
約1年ぶり、ちなみに前回はプロトプテルス・ドロイの治療についてのお話でした。
さて、今回は水族館で飼育している魚から見つかった寄生虫についてのお話です。
さかのぼること、なんと5年前!
2020年に搬入したファイヤースパイニィイール5匹がなかなかエサを食べず、体調の悪い状態が続きました。
↓ファイヤースパイニィイールはこちら
実は、メコンオオナマズがいる水槽で展示している魚でトゲウナギと呼ばれる魚の仲間です。
1匹のファイヤースパイニィイールが残念ながら死亡してしまい、死因を調べるために剖検(※1)を行いました。
腹腔内や腸管内に寄生虫がたくさん認められました。その他の臓器についても病理検査に出してみましたが、寄生虫感染以外に目立った病変はありませんでした。
※1 剖検とは
生き物が死んだ原因などを検査するために、死亡した生き物を解剖すること。
(閲覧注意:魚の内臓の写真があります。)
↓剖検様子はこちら、黄色丸のところに赤色の寄生虫がいることがわかります
寄生虫が体調不良の原因ではないかと考え、駆虫剤の薬浴を開始しました。
しかし、残り4匹の状態は良くならず、エサも食べないままです。
さらに1匹の死亡が認められてしまいました。
その個体も剖検しましたが、1匹目と同様に、寄生虫の感染以外に病変が認められません。
薬浴では駆虫できないと思い、駆虫剤を経口で与えることにしました。
すると、数日後に1匹がエサを食べ始めました。また、2週間後にもう1匹食べ始め、投薬を始めて2ヶ月後には最後の1匹も摂餌を確認することができました。
なんとか、残った3匹は体調が回復し、順調に成長していきました。
しかし、ここで問題が1つ。
ファイヤースパイニィイールから完全に寄生虫を排除できたかはわかりません。
そのため、他の魚と同居させてしまうと飼育水を介して寄生虫が移ってしまう可能性があります。
そこで、寄生虫を調べるため、岐阜大学獣医寄生虫病学研究室の高島先生に寄生虫の同定を依頼しました。
高島先生に、今まで調べられて知られている寄生虫の形の特徴と比較して、どの種や属に属するのかを調べてもらうこととなりました。
さらに同研究室の齋藤先生も加わり、同定してもらった結果、カマラヌス属の線虫であることがわかりました。
残念ながらカマラヌス属の生活環(※2)はまだわかっておらず、ファイヤースパイニィイールは他の魚と同居することができませんでした。
展示水槽へのデビューは叶いませんでしたが、現在もバックヤードの水槽で飼育管理を行っています。
※2 生活環とは
寄生虫の卵や幼虫が発育、変態して成虫となり、次の世代を生じるまでのサイクルのこと。寄生虫によっては、成熟するために他の生き物(中間宿主)に一度、寄生しないといけないものもいる。
また、今回見つかった寄生虫がカマラヌス属の特徴をもつことまでは判明しましたが、報告されている文献と比較しても形が全く同じものが見つからず、もしかして新種?!という状況になりました。
そこで、高島先生と齋藤先生は世界中からカマラヌス属に関する文献を取り寄せ、今回検出された寄生虫と比較されたそうです。
文献は膨大な量になっていましたが、資料をまとめた先生方は「この資料でカマラヌス属全て同定できるようになりました」と満足げな顔をされていました。
今回は、メスの寄生虫しか検出されなかったことより、新種であることを確定させることはできませんでしたが、寄生虫の形態とDNA情報だけではなく、寄生された魚の症状についてもまとめた貴重なデータを発表することができたとのことです。
これらの結果が、2025年3月に寄生虫の雑誌である『The Journal of Parasitology』に論文掲載されました。キレイな寄生虫の写真が載っていますのでぜひご覧ください。
水族館にやってくる生き物は、さまざまな場所からやってきます。
そのときに病気にかかっている可能性もあり、検疫することの大事さを痛感した事例でした。
今後も、水族館の生き物を健康に管理できるよう頑張っていきます!
↓最後におまけ
テーマ水槽『うなぎのぼりの恵方巻』でも活躍してくれました